風力発電機の故障リスクを予知せよ
Vol.6

風力発電機の故障リスクを予知せよ

AIによる異音検知ソリューション
再生可能エネルギーとして期待される風力発電。「さらなる普及拡大のためには、事故や故障の発生リスクを予知し、安心して運用できることが欠かせない――」そんな小型・中型風力発電機の建設・販売を手がける株式会社エネルギーファーム様の思いに応えるため、NTTデータCCSがご提案した、風力発電の安心安全を支える「異音検知ソリューション」をご紹介します。

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浪川さん

株式会社エネルギーファーム
技術部長

浪川 憲司 様

Kenji Namikawa

土井さん

ビジネスソリューション事業本部
スタートアップ推進室
担当部長(当時)

土井 利次

Toshitsugu Doi

籔内さん

ビジネスソリューション事業本部
スマートファクトリー
&モビリティ事業部
第1システム開発部
課長(当時)

籔内 篤淑

Tokuyoshi Yabuuchi

風力発電機の事故・故障リスクを抑えるために

国土が狭く設置場所の制限が多い日本では、住宅地の近くでも設置できる小型・中型風力発電への期待が高まっています。一方、小型・中型風力発電の運用ノウハウは業界全体としてまだ途上にあり、安全対策もさらに向上させていく必要があると、株式会社エネルギーファームの浪川様は語ります。

「当社・株式会社エネルギーファームでは、設置場所の選定や小型・中型風力発電機の代理店業務、各種申請・手続きのサポートなどをワンストップで手がけています。特に、小型風力発電機は、アセスメント不要でエントリーコストが小さいという利点から企業を中心に需要が伸びており、当社でも2021年までに新規に300カ所での販売・稼働を見込んでいます」

「ただし、風力発電機は『建てればどこでも発電できる』わけではありません。国内2,000カ所以上ある建設登録申請地の中から綿密に風況調査を実施して、『効率よく発電できるか』『強風によってモーターに負荷がかかり、事故・故障リスクが高まらないか』などを精査し、建設地を決定する必要があります。
風力発電はクリーンな発電方法として期待が寄せられていますが、ひとたび事故が起きると安全なイメージが崩れ、風力発電ビジネスそのものの成長が阻害されてしまいかねません。したがって安全性には十分配慮する必要があるのです」

風力発電機は、動作不良時に異音を発すると言われています。ところが風力発電機は北海道や東北地方等の海岸沿いの遠隔地に設置されることが多く、常に運用担当者や管理者が異音をチェックできる状態にはありません。発生した異音を聞き逃し、ついには故障や事故に至ってしまう……。それでは「いつ事故が起きるかわからない」と住民の方が不安を抱えることになります。

風力発電機は『建てれば
どこでも発電できる』
わけではありません

エネルギーファーム様が手がけた小型風力発電の写真

そこで、実際に装置が故障する前に、装置の不調の程度を定量化し、その変化の兆候を掴めれば、早い段階でメンテナンスや修理を行い、事故・故障のリスクを抑えられる――。このように考えていた浪川様が、故障の兆候を早期発見するために着目したのが、「音」でした。

籔内さん

実用レベルの実績で抜きん
出ていたNTTデータCCSに
ご相談

「他の産業では、既に音を解析して品質管理や異常検知を行っていますので、これを風力発電機にも応用できるのでは、と考えたのです。そこで実用レベルの実績で抜きん出ていたNTTデータCCSにご相談させていただいたのが、今回のプロジェクトのはじまりです」

NTTデータCCSなら、こうした課題にも応えられる理由があると籔内さんは胸を張ります。

「JXTGグループ(現・ENEOSグループ)がルーツのひとつであるNTTデータCCSでは、石油精製プラントの配管に開いてしまったピンホールの漏洩音を検知する技術に、15年近く前から取り組んでいます。他にも鍛造プレスを行う機械の不良を異音から検知する技術を開発するなど、さまざまな産業で培った蓄積を活かして、エネルギーファーム様のご相談に応えられるのではと考えました」

※ピンホール……ごく小さな穴

異常検知の仕組み

異常検知の仕組み

お客様のニーズや現場の制約に、柔軟に対応

土井さん

ニーズをきちんと整理して
適切なスペックの
ソリューションを提案する

とはいえ、お客様が現場でシステムを運用していくうえでは、当然さまざまな制約があります。NTTデータCCSはお客様のニーズをきちんと整理して、適切なスペックのソリューションを提案することを大切にしていると土井さんは語ります。

「例えば、通信環境の制約。風力発電機が設置される遠隔地では、必ずしもハイスペックな通信環境や端末が整えられるとは限りません。できるだけ現場でデータを処理し、小型化したり、必要なときのみにデータ伝送するようにすることで、スピーディーで精度良く解析ができるよう工夫しました。
また、マイクの設置場所にも制約がありました。装置の安全管理上の責任分担上、稼働する風力発電機のモーターやギアなどの機構のすぐ近くにマイクを設置することはできず、音の発生源から20〜30m離れた地上付近に設置しなければなりませんでした。そこでさまざまなノイズ・環境音のなかから風力発電機の音のみを収集できる特殊なピックアップマイクを、社内外との連携を活かし、マイクの専業企業と共同開発しました」

マイクの専業企業と共同開発した特殊なピックアップマイク(試作品)

マイクの専業企業と共同開発した、特殊なピックアップマイク(試作品)

一方で、どれだけ高度に異常を測定・検知できたとしても、実際に運用する人に、わかりやすくその結果を提示できなければ、適切に判断できずシステム導入メリットがないことを、浪川様は強調します。

「NTTデータCCSの異音検知ソリューションは、異音検知の解析結果がわかりやすく表現されていて、運用する人にも使いやすいものでした。今後、当社が販売する小型・中型風力発電機の全てに、NTTデータCCSの異音検知ソリューションを搭載していきたいと考えています」

異音の聞き分けは、長年、現場で保守などにかかわってきた専門家でなければ難しいもの。解析のロジックを適用することで、現場の技を定量化・可視化でき、専門家でなくても異常の有無を判断できるようになります。また異音検知ソリューションでは、AIに正常状態を学習させることで、予期しない異常の検知も可能になりました。

小形風力発電機の異常検知

小形風力発電機の異常検知
異常値が客観的に把握できるので、メンテナンス時期の目安を知ることができます。

異音検知ソリューションのさらなる可能性

異音検知ソリューションに、浪川様はこう期待を寄せます。

「安定した偏西風が吹くヨーロッパとは異なり、日本では季節ごとに吹く風の性質が大きく異なります。秒速60mを超える凄まじい強風が吹くこともあり、『風が暴れる』とも言われます。こうした突発的な悪天候に見舞われた後に、平常時と正常時の状態の比較ができれば、運用再開後にすぐに異常発生の有無を検知し、必要な時には迅速かつ適切に修理を行うことが可能となり、事故発生のリスクを抑えることができます。 実際、異音検知ソリューションによって異常が検知された発電機を点検したところ、ボルトの緩みが発見されたこともありました。これまで定期メンテナンスでしか確かめられなかった異常を発見できることは、大きな安心につながります。
このようなAIやIoTを活用した技術を組み込んだ、風力発電機を全国に普及させ、風力発電の安全性向上に貢献したいと考えています」

NTTデータCCSの2人も、「AIは、作って終わりではなく、賢くするように育てていくもの。多くのデータを取得し、アラームをあげる閾値を最適化したり、季節変動や、装置間の個体差に対する精度向上、故障の原因の分類などにとりくむ予定です。今回のプロジェクトでは、初めから難しい課題を実現させるのではなく、効果が出るところから着手し『時間をかけて育てていく』方針です。これからもノウハウを蓄積し、風力発電の安全性向上にお役に立ちたい」とプロジェクトの展望を語ります。

土井さんと籔内さん

続けて2人は、異音検知ソリューションのさらなる可能性を思い描きます。 「異音検知ソリューションにより、人の手で保守点検をしづらい場所や、24時間稼働する機械など人員を割いて保守作業しなければならない作業をより効率化できると考えています」と籔内さん。土井さんも「人間能力を超えた分野にこそ、NTTデータCCSの『異音検知ソリューション』がさらに力を発揮できる可能性があると思います。例えば、低周波など人間の可聴域を超えた音を収集・解析し、今まで聞き分けられなかった異常を発見したり、どのような音源からどのような故障が発生しそうなのかの分類ができるようにしていくつもりです」と希望に満ちた表情で語りました。