岩澤さん 活用方法はたくさんあると思いますが、ひとつには「熟練の技術者の暗黙知を、AIに継承させる」というものがあります。NTTデータCCSでは、特に農業の分野において、AIを水稲の生育診断に活用しようと考えました。
岩澤さん 稲作の主役はイネで、イネの生長を助けてあげるのが農家の仕事です。生長を助けるという意味で言えば、田植えから稲刈りまでの間に、人間ができることは「水管理」と「施肥」の2つしかありません。昔から、“米作りは水との駆け引き“と言われるほど水管理は重要ですし、施肥は適切な時期を逃すと、お米の品質や収量が大きく変わってしまうほど、いずれもタイミング(生育ステージ)の見極めが重要な作業です。
しかし、こうした生育ステージなどの、刻々と変わるわずかな変化を現場で見極めるのはなかなか難しく、長年経験を積んで熟達した人の「観察眼」が不可欠です。他にはたとえば顕微鏡を用いて生育ステージを判別する方法もありますが、0.1mm以下のごく小さな幼穂を解剖する技術が必要です。この難しい判断を手助けするために「水稲AI生育診断ソリューション」を開発しました。
※施肥…肥料を与えること
下城さん ずAIに、「生育ステージごとの水稲の画像データ」を大量に学習させます。するとAIは生育ステージごとに微妙に異なる水稲の形状等を認識し、「各ステージの特徴」を自ら定義します。
岩澤さん その学習データを基に、スマートフォンなどのカメラで撮影した田んぼの画像から、AIが水稲の生育ステージを判別し、適切な施肥の時期を提案してくれるのが「水稲AI生育診断ソリューション」です。
田んぼに固定カメラを設置し、画像を撮影する様子
下城さん 実地でテストしたところ、「AIが判断した水稲の生育ステージ」と「実際の水稲の生育ステージ」の判別誤差は、2年間でわずか±1日以内。驚くほど高い精度で解析・判別できるんです!
下城さん 天候やカメラの性能などの要因によって、撮影される画像の色味にばらつきが出てしまい、AIが画像を正しく解析・判別できない可能性があります。でも、NTTデータCCSがさまざまな分野で培ってきた画像解析のノウハウを活かして、例えば画像の一部だけを使う、色情報を補正して学習させる等、「解析する箇所」「補正の方法・度合い」について試行錯誤を繰り返すことで、高い精度のAIモデルの構築につなげることができました。
岩澤さん そうなんです。また、NTTデータCCSにいろんなアプローチができる人材がそろっていることも、開発の後押しになりました。
下城さん おかげさまで、大変な反響をいただいています。展示会等で「水稲AI生育診断ソリューション」を紹介させていただくと、「いつから使えるようになるんですか?」「いくらで使えるんですか?」というご質問をいただくほどです。また、実際に現場でカッター等を用いて簡易的な幼穂診断を行っている方々からも「作業の効率化につながる」とのお声をいただいています。
岩澤さん 日本の農業は近年、後継者不足が課題になっています。生育ステージを判別する技術は言葉で説明するのが難しい「感覚」の世界なので、教える側・教わる側どちらにとっても悩ましいもの。技術の継承という観点からも、「経験の浅い作業員でも高度な技術を扱うことができる」「イネを解剖(解体)することなく判別できる」という視点が潜在的に必要とされていました。そうした背景もあってか、若い農家の方からも興味を持っていただいています。
岩澤さん まずは判別精度の向上ですね。それによって「生産性を高めることが収益の向上につながる」という議論ができます。最終的に農家の信頼に足るものをつくり、重要な場面で使っていただけることを目指します。また、テクノロジーの力で、農業の楽しさ・喜びの向上にも貢献したいと思っています。例えば「水稲AI生育診断ソリューション」は、利用者から「『AIはどう判定してくれるかな?』と、田んぼに行くのが楽しくなる」という声が上がっています。農業分野へのIT活用には、省力化や自動化に加えて、農業に関わる上での面白さとか、モチベーションを上げる要素をもたらしてくれることにも期待しています。
下城さん 汎用性を高めて、条件が異なるさまざまな地域にも対応させていきたいですね。チューニングすればいろんな品種や海外の稲作にも応用できるはずなので、より多くの人の役に立てるソリューションにしていきたいです。
また、若い方のIターン農家も増えているので、未経験の人たちが農業に関心を持ち、農業を始めるきっかけになればいいですね。私たちも現状に満足せず、さらにシステムを進化させていくので、ご期待ください!
NTTデータCCSでは、これまで30年以上リモートセンシング技術を用いた衛星データの解析業務を行っており、その対象は「地球の表面」でした。どちらかといえば研究的な要素が強く、お客様が官公庁系ということもあり、せっかく出した結果もNTTデータCCSの結果としてアピールする機会は多いとは言えませんでした。昨今のAI業務の対象は、植物、岩石、人、車と森羅万象ですが、これまで培ってきた画像処理技術を生かすフィールドとしては、非常に有望であり、宝の山だと考えています。この宝の山に分け入って行ける技術力と多様な人材がNTTデータCCSの強みだと考えます。その技術を農業分野に応用しようとしているのが、今の農業チームです。
農業チームのみなさん(次世代農業EXPO2019にて)