水流さん いくつか手法がありますね。1つは正解と不正解をあらかじめ用意しておいて、AIに自動で学ばせるパターン。これは“教師あり学習”といいます。囲碁や将棋の学習では正解・不正解の定義が難しいため、都合のいい結果が出たときに“報酬” を与える「強化学習」が利用されます。
竹本さん 最近では深層学習(ディープラーニング)という技術も出てきていて、私たちも目下研究中です。この技術を使えばものを複層的に学ばせることができるので、世界的にも注目を集めているんですよ。
竹本さん では、先ほど話に出た、画像の中からものの形を判別する“画像認識”で説明してみましょうか。例えばAIに「犬とはどんな形をしたものか」を学ばせたい場合は、動物の画像データを大量に渡して、犬の画像を「正解」、それ以外を「不正解」として処理していくんです。それを繰り返していくうちにAIは犬の形を覚えるようになります。この学習の方法が、深層学習なんです。
水流さん 「いくつもの層にまたがって学習を重ねていく」という意味です。例えばさっきの例だと、柴犬の画像には柴犬の特徴が表れていますよね。「茶色い毛が生えている」とか、「しっぽが巻き上がっている」とか、「体高40cmくらいだ」とか。で、この画像が「正解」だと分かったときに画像に表れた柴犬の特徴を認識して、「これらの要素をもつ物(柴犬)は犬の一種だ」と学びます。そして、同じようにしてシベリアンハスキーもプードルも犬として認識できるようになるんです。
竹本さん 実はその通りで、深層学習の学習モデルは“ニューラルネットワーク”と呼ばれています。「ニューラル」の名詞形は「ニューロン」、つまり脳の神経組織です。深層学習では、脳機能の特性をコンピュータ上でシミュレーションし、人間の学習プロセスをまねているんですよ。
水流さん しかもコンピュータですから、同じデータを人より速く、疲労することなく処理することができます。例えばネジの生産工場で製品の検品に使う場合でも、正しいネジの形を人間よりも早く覚え、一度に大量の処理が行えるため、結果的に実際の検品作業も人間より速く、正確に行えるんです。
竹本さん 画像解析と組み合わせて研究を進めています。月面や海底での地形解析から派生して、現在は農業用途で利用する方法も研究中です。具体的には稲の生育状況の判定や害虫の同定など、長年の経験が必要とされる部分をAIで代替する方法について商用化を進めています。
水流さん AIにいかに効率的に学習させるか、毎日が試行錯誤の連続ですよ。それでも思いついた方法がうまくいって、順調に学習が進んだときはうれしいです。ある意味で育児に似た、“育てる喜び”がありますね(笑)。
竹本さん さっきもお話しした通り、現在IT業界で注目が高まっている技術の一つですから、最新の動向を学びながら研究する楽しさもありますよね。深層学習への世界的な研究の熱の高まりは、まだまだ続くはず。私たちも柔軟な発想で開発を進めていきます。